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• • 342a7-b1 クレタとラケダイモン

シモニデスの詩の解釈（第26-31章）

342a7-b1 クレタとラケダイモン

クレタとラケダイモン（スパルタ）における哲学にソクラテスが言及している のはもちろん皮肉であるが，両国家の体制，とくに教育方法についてはプラト ンを含む，多くのギリシア人が賞讚している。

『ヒッピアス（大）』285b-e

スパルタの教育の現状について。

ソクラテス しかるにラケダイモン人にとっては，あなたの主張され るところによると，あなたによる教育──これは外来の教育ですが──を受け るほうが自分の国の教育を受けるよりは有益だということです。

ヒッピアス そう，しかもぼくの言っていることはほんとうのことで もある。

ソクラテス いかにも。そしてさらに，より有益なことは，より法に 適っている，とこうも主張されますね，ヒッピアス？

ヒッピアス たしかにそう言った。

ソクラテス してみると，あなたのお説に従えば，ラケダイモン人の 息子たちにとっては，ヒッピアスから教育を受けるほうがより法に適っていて， 父親による教育のほうはより法に適っていないということになる，──ほんと うにあなたによる教育のほうがいっそう彼らのためになるはずならばですね。

ヒッピアス むろんためになるはずだよ，ソクラテス。

ソクラテス してみると，ラケダイモン人は，あなたにお金を払って 自分たちの息子を任せないのですから，法に違反していることになります。

ヒッピアス それは認める。君の言っていることはぼくの立場を支持 してくれるもののように思えるし，そのことにぼくが反対する筋合いは何もな いのだから。

ソクラテス かくてラケダイモン人は，これはここだけの話ですが， 実は法に違反しているということが，しかもいちばん重大な問題でそうなのが わかりますね，──最も法に適った人々だと見なされていますけれども。

それはそうとヒッピアス，ほんとうのところ，彼らがあなたをほめそやし，喜 んで聴きたがるのは，どういう事柄なのですか？ あるいはそれはもうわかり きったことで，あの，あなたがきわめてすばらしく精通しておられること， つまり星や天体現象に関することですか？

ヒッピアス いや，まったくちがうね。そういうことには彼らはとて もしんぼうすることはできない。

ソクラテス それなら幾何学については喜んで聴こうとしますか？

ヒッピアス 全然。彼らときたらその大部分の者が，計算すらできな いといってよいくらいだからね。

ソクラテス してみると，算術などはあなたの講義をしんぼうして聞 くどころではないのですね。

ヒッピアス それはもう誓ってそれどころではない。

ソクラテス それなら，あなたが誰よりも厳密に類別することがおで きになること，つまり字母や綴りや音律や音階の機能については？

ヒッピアス 音階や字母だって？ 君！

ソクラテス しかしそれなら，彼らがあなたから聴きたがり，またほ めそやすのはいったい何なのです？ あなたご自身の口からどうかおっしゃっ てください。わたしには発見できませんから。

ヒッピアス 英雄や人間の家系についてとか，ソクラテス，昔どのよ うに国々が建設されたかという建国の話とか，要するに，何でも昔話を大そう 喜んで聴きたがるのだ。それでぼくとしては，彼らのおかげでどうしてもそう いった類いのことを一つ残らずすっかり暗記し，完全に習熟しておかざるをえ ないことになってしまったのさ。

ソクラテス やれやれ，ヒッピアス，ラケダイモン人がソロンをはじ めとするわれわれアテナイ人の代々のアルコーンのことを一々列挙するのを喜 ばなくて，あなたはなんとしても好運でしたよ。さもなければあなたはさぞか し暗記にてこずったことでしょう。

ヒッピアス どういうわけで？ ソクラテス。いっぺん聞けば，五〇 人の名前をぼくは憶えてしまうだろうよ。

クセノポン『ソクラテスの思い出』3.5.15-17

スパルタの国制をペリ クレスが賞讚しているくだり。

「それだと，われわれの国家が真の有徳に達するのは実に遠いわけですね。だっ て，いつになったらアテーナイ人がラケダイモーン人のように，あれほど長上 をうやまうようになるでしょう，いまの彼らは自分の父親からはじめて老人を 侮るのです。あるいはまた，いつになったちあれはど身体を練るようになるで しょう，彼らはただに鍛錬を怠るばかりか，これを心掛ける人々を嘲笑するの です。いつになったら，あれほど統治者によく服従するでしょう，彼らは統治 者を侮ることに得意を感じているのです。またいつになったら，あれほど協調 の精神を得るでしょう，いまの彼らはお互いの利益のために協力するどころか， よその人間に対するよりも，もっと横柄に侮辱しあい，嫉妬しあい，中でもと くに私のあるいは公の集会では，異議ばかり唱え，そしてまことに頻繁に訴訟 を起しあい，互いに助けあって利益を得るよりも，こうしてお互いをいためて 儲けることを好み，公の要務を他人事のように扱いながら，しかもそれを得よ うとしてせりあい，そうした競争をする能力があるのを何よりも喜ぶのです。 そのために，幾多の弊害と禍根が国家に根を下ろし，敵意と憎悪とはおびただ しく国民相互の間に生じました。それで私は，いまに堪えることのできないよ うな大災厄が国家に降って来はしないかと，いつもすこぶる憂慮しているので す。」

「決して」とソークラテースは言った，「ペリクレース，それはどまでにとり かえしのつかぬ悪弊に，アテーナイ人が陥っていると思ってはいけない。君は 見ないか，われわれの海戦隊の人々がいかによく訓練されているか，運動競技 の人々がいかによく専門家に服従するか，舞楽の人々がいかなる人々にも劣ら ずいかによく教師にしたがうかを。」

クセノポン『ソクラテスの思い出』4.4.15-18

ソクラテスがスパルタ の伝説上の立法者リュクルゴスを賞讚するくだり。

「ラケダイモーンのリュクールゴスにしても」とソークラテースは言った， 「法律の遵守を第一のこととして，市民に徹底せしめなかったら，スパルタを 他の都市となんら異なる存在とはしなかったであろう，君はそのことを気がつ いているか。そして国家の支配者のうちでは，よく市民をして国法にしたがわ せるようにした人々が，最良の治者であり，また国家としては，市民がもっと もよく国法にしたがう国家が，平和にあってもっとも楽しく暮し，戦争におい ては無敵であるのを，君は知らないか。かつまた，民心の一致は国家のために 最大の善であると考えられていて，国家の元老たちや名望家たちは，つねに市 民にむかって一致を勧説し，またヘラスのうちいずれの国にも，市民の一致を 宣誓させる法律があり，どこの国でもこの宣誓を実施しているのである。けれ ども私は思うのに，こういうことのできたのは，何も市民がおなじ舞楽を第一 等と審判するようにとか，またはおなじ笛師を賞讃するようにとか，またはお なじ物を愛好するようにとかいうためではなく，国法にしたがうようにという ためなのである。なんとなれば，市民が国法を守るとき，国家はもっとも強く， もっとも幸福になるからである。 一致のないとき，国家には隆盛なく，家に は繁栄の来ることがない。個人の生活においても，国法にしたがうにまさって， 国家から罰を受けること少なく，栄誉を与えられることの多いことが，あり得 ようか。法廷においても，これにまさって負けること少なく，勝つことの多い 道があろうか。国法を尚ぶ人以外の誰に，財産あるいは息子または娘の後見を 托する者があり，国家全体も誰をもっと信ずるに足る人間と思うであろうか。 親または親戚，または家撲，または友人，または市民，または異郷人が，なん びとに一層正しいとり扱いを受けるであろうか。敵は，休戦や，条約や，講和 の締結に，誰を一層信ずるか。法を尚ぶ人をおいて，世人は誰の味方になりた がるか。かかる人以外の誰に，味方は軍の司令や，警備隊の指揮や，国家を， ゆだねようとするか。法を尚ぶ人以外のなんびとから，報恩を一層期待し得る か。恩に報いる人と己れの信ずる人よりも，人は誰にもっと深切を示そうとす るか。かかる人以外の誰と，人は友人になることを望み，敵となることを嫌う か。自分が友人になることをもっとも望み，敵となることをもっとも嫌い，そ してほとんどすべての人々が友人および味方となることをもっとも望み，不和 あるいは敵となることをもっとも嫌う人より，もっと相手としてあらそいたく ない人がほかにあろうか。されば，ヒッピアース，私は法に適うことと正義と はおなじものと説くのだ。もし君に反対の意見があるなら，教えてくれたま え。」

するとヒッピアースは言った，

「いやまったく，ソークラテース，私の考えているところも，君が正義につい てのべたところとちがうようには思わぬ。」